悪いのはあなたじゃない、うつ病はこんな病気。

――不安は、不明から来る。

「分からない」「知らない」という状態は、不穏な気持ちを呼び起こす。状況が分からないというのは、とても不安になる要素だ。

でも、状況が把握さえ出来れば、どんなものか知ってさえいれば、マイナスの局面でも、ある程度の心づもりが出来て、不安が軽減されることもある。

そんなわけで今日は、私がうつ病になってから経験したことや、これまでに得た知識から類推して、「うつ病とは?」というテーマでまとめた私の意見を書く。

……と言っても、私は医療関係者でもないし、心理学者でもカウンセラーでもない。ただのうつ病歴7年目の患者なので、この記事は一患者の、現場からの個人的意見だ。

それでも、うつ病という、パッと見よく分からない、あやふやな病気を理解する手がかりになったらいいな、と思い、2018年3月現在、私が把握している「うつ病」について記すことにする。

●うつ病とは?

うつ病とは「脳に異常が起こる」病気だ。

人間をコントロールする「脳」が故障するのだ。うつ病、という名前からイメージされるより、はるかに厄介で難易度の高い病気である。

「脳の異常」ということは、「心の風邪」「気の持ちよう」「気のせい」「ヤル気の問題」「がんばればなんとかなる」などの、ふんわりした、ザックリした、ほわわわ~んとしたものではない。また、心の強さ弱さの話でもない。

しかし、残念ながらうつ病は、上のような雰囲気で世間に誤解され、そのため、うつ病患者さんが自分の病気に罪悪感を持ち、回復を阻む障害となってしまっている。

でも、繰り返すが、うつ病は「脳の病気」だ。

うつ病にかかると、脳に異常が起こるため、機能障害が起き、正常な働きが行われなくなる。そのために日常生活が困難になってしまう(詳しくは後述)。

うつ病は、場合によっては命に関わる、とても恐ろしい病気である。

もし、あなたが今、うつ病じゃなくても、全然他人事ではないのだ。

うつ病は、10人~15人に1人がかかる病気と言われている。誰でもなる可能性があるし、身近な人がなる可能性もある。

しかも、重症になればなるほど、状態が回復するまでに長い時間がかかる。場合によっては数年から、10年を超えることもある。うつ病だと判明し、治療を開始したにも関わらず、周囲の不理解や、主治医との相性などなど、様々な事情から治療が上手く進まず、悪化していくことも少なくない。

「自分はメンタル強いから大丈夫」「自分は明るい性格だから大丈夫」などの本人の意思は関係なく、知らないうちにかかってしまうのだ。健康診断でも重症でない限り分からないから、油断は出来ない。うつ病は、知らないうちにあなたのそばに忍び寄っているかもしれない。

そして、うつ病は早期の治療がとても大切だ。

私は兆候に気づきながら、自分をだましだまし1か月、病院に行くのをためらったために、重症のうつ病となり、7年目の今も自宅療養中だ。今はずいぶん回復してきたけれど、それでもあの時もっと早くに病院に行っていたら……と思う。

もしうつ病かも?と思ったら、すぐに病院へ。

●うつ病の原因はストレス

うつ病を引き起こす原因はストレスである。

ひとくちにストレスと言っても様々で、うつ病は多種多様なストレス要因が絡み合い、発症する。

ストレスは、人間関係や職場のトラブル、病気など、わりと認識しやすいものはもちろん、予想外の分かりにくい要因もある。転職、昇進、結婚、出産など、一見おめでたい出来事も、環境が激変することで、人によってはストレス要因となることがあるのだ。

また、細かいストレスが積み重なって限界が来て、うつ病になってしまう人もいるし、大きなストレス一発でうつ病になってしまう人もいる。仮に、100がうつ病へのデッドラインとするなら、1ストレス×100個でうつ病になる人もいれば、100ストレス×1個でうつ病になる人もいる。

ストレスの要因は人それぞれ、病気の原因も人それぞれだ。

●うつ病って何がどうなってるの?

病気のしくみを説明すると、以下のような感じ。

人間の体はストレスを受けると、コルチゾールというストレスホルモンが全身を駆けめぐる。コルチゾールは血糖値や血圧を下げたり、免疫反応を沈め、炎症を抑える働きをする。このホルモンが出ることによって、身体がストレスに立ち向かうため、防御の変化を起こすのだ。

――例えて言うなら、何かがぶつかる!と判断した時に、ぎゅっと体に力を入れて、身を守るようなイメージ。

そのように、ストレスへの防御のために登場するコルチゾールだが、ストレスを受け続けてコルチゾールが出っぱなしになると、身体はずっと緊張状態が続くことになる。

過剰なコルチゾールの分泌が続くと、脳の神経細胞がダメージを受ける。メンタル弱くてハートブレイク、ではなく、物理的に脳の一部が損傷を受けるのだ。

記憶を制御する脳の海馬もダメージを受けるので、記憶力が低下する。

またストレスは、恐怖や不安を感じる偏桃体の働きを加速させる。常に緊張状態が続くことで、偏桃体が異常に活発になるので、怒り、悲しみ、不安、不甲斐なさ、とネガティブなことばかり考えてしまうようになる。

うつ病の初期症状として表れる、ちょっとしたことで泣き出してしまったり、涙もろくなったり、涙が止まらなかったりするのも、そのせいだ。

こうした状態が続くのは、うつ病患者さんが卑屈なのでも、気弱なのでもなく、心が弱いわけでもなく、うつ病の症状によるものなのだ。

●うつ病は脳の病気だから、心がちゃんと動かせない。

うつ病は脳の病気だから、当然、心にも不具合が出る。

憂うつな気分が続き、何事にも興味や関心が持てなくなる。劣等感や罪悪感は増加し、反対に思考力や集中力、決断力、判断力は低下。

そんな混乱した脳では、日常生活に支障をきたすのも当然だ。身の回りのことができなくなるのも、それが理由。

例えば――、

お風呂に入れなくなるのも、手順の多い入浴という行為を、思考力の落ちた脳が困難な課題と感じ、厄介事として捉えてしまうからだ。

料理も同じ。献立を考え、買い物をし、並行していくつもの手順をこなさなければいけない料理は、思考力や判断力が必要な、段取りが重要な行為だ。病気になるまで手際よく出来ていたことが出来なくなるのは、脳の機能障害によるものだ。

部屋を片付けられないのも、思考力や判断力が低下しているから。何をどこに片づける、ということを考えたり、判断するのが苦痛になってしまうのだ。

出かけられないのは、情報を処理する機能が落ちるため。いつもいる部屋より、外出した出先の方が、圧倒的に五感から入ってくる情報量が多いので、機能の低下した脳の負担になるのだ。

人に会うのがイヤになるのも、電話やインターホンに出られないのも、思考力や集中力が働かないせい。会話などのコミュニケーションは、相手の話したことを聞き取り、理解し、瞬時に答える、と高度な情報処理を必要とする。しかし、うつ病で機能が低下した脳の状態では、健康な人に比べて処理速度は遅くなり、場合によってはオーバーヒートを起こしてしまう。

1日中ふとんの中から出られないのも、怠け者だからではない。故障した脳が自己防衛のため、省エネモードで活動しようとするからだ。逆に健康であれば、理由もなく1日中ふとんの中で、不安に怯えることは、かえって難しいと思われる。

……といったように、うつ病による脳の機能障害は、さまざまな弊害をもたらす。うつ病になると生じる「お風呂に入れない」「料理が出来ない」「部屋が片づけられない」「出かけられない」「人に会いたくない」「1日中ふとんから出られない」などなどの状態は、あまり世間に認知されていない。

しかし、うつ病になると、そんなの聞いてなかった想定外、の連続なので、うつ病患者さんは、戸惑い、不安になり、「自分ってなんてダメなんだろう……」「どうして出来ないんだろう……」と罪悪感を持ってしまう。

でも、これらはうつ病による、脳の機能障害によって引き起こされるものだ。

●うつ病は脳の病気だから、身体がちゃんと動かせない。

うつ病は脳の病気だから、脳からの指令が上手く行き届かず、身体にも不具合が出る。

食欲の低下もしくは過食、眠れなかったり逆に過眠になったりする。

頭痛、肩こりや腰痛、腹痛、便秘、嘔吐、動悸、めまい、全身の倦怠感が出る人もある。

さらに疲れやすくなり、いつまでも疲れが取れにくい。

うつ病の自覚症状が無くても、これらの症状がいつまでも続き、内科などの病院にかかっても改善されない場合は、うつ病の可能性もある。一度心療内科、精神科を受診するといいかも。

●うつ病は「脳の故障」だから修復が必要。

うつ病は「心の病」ではなく「脳の故障」である。

脳が故障するから、心にも影響が出るのだ。心が弱いからうつ病になるのでは無い。実際は世間の認識と逆である。

うつ病になると脳が故障するから、身体もちゃんと動かないし、心もちゃんと動かせない。身体や心をコントロールする脳が壊れているのだから、きちんと病院に通って、脳の機能障害を修復してくれる薬を服用するなどの治療が大切。

壊れた脳は、すぐには復旧しないから、医師の判断のもと、数か月から1年以上は薬を飲まなくてはならない。回復したように見えても、自力で脳の機能が働くようになるまで、服薬でのサポートが必要だ。

時に「1週間でうつが治るメソッド!」「当院の施術で、うつがあっさり改善!」といった類の情報を見かけるが、私は「うーん、微妙」と思っている。

うつの状態も個人差があるので、人によっては効果がありえるかもしれないが、「うつ病は、脳が損傷し、機能障害が起こる病気」であり、「修復には時間がかかる」という理由から、本当のうつ病がケロリと治るとは考えにくい。なので私はそのような勧誘が来ても、遠慮することにしている。

●それはあなたのせいじゃない、うつ病のせい。

うつ病は様々な症状が出て、日常生活が困難になるなど、さまざまな影響が出る。だから、いろんなことがうまく出来なくなったのも、あなたのせいじゃなくて、うつ病のせいだから、あきらめたり、早まったりするのはダメ。

絶望で未来が見えなくても、他のことは何もできなくていいから、とりあえず治療だけは受けたほうがいい。もし悲観して、すべてをなげうってしまいたいと思っているなら、あなたが行くべきところは、ビルの屋上や駅のホームじゃなくて、病院だ。しかも大至急。

病気で機能が低下した自分の脳を、自分の判断力を過信しないで、すみやかに病院へ行こう。

きっと良くなる日が来るから、暗闇の中でも希望は捨てないで。

――悪いのはあなたじゃない、それはうつ病のせい。