私と友人の横水さんの、海賊船を手に入れ、大企業を作る壮大な野望。

うつ病の症状が酷かった頃の私は、未来を夢見るどころか、明日のことすら、いや、1時間先のことすら思い描くことが出来なかった。

「一寸先は闇」ーーまさにこの状態で何年も過ごした。時は私の手からサラサラこぼれて、暗闇の中でもがく日々が続いた。

でも、うつ病の症状が回復してくるに従い、また徐々に想像力が戻り、夢や希望を思い描くことが出来るようになってきた。

今日は今の私の夢の話を、ーー寝ている時の夢ではなくーー未来に思い描く、夢の話を書く。

さて、これから大風呂敷を広げる。

話半分で読んで、笑ってもらえたら、それでうれしい。でも私は、冗談じゃなくて真面目に言ってるので、そうなのかと見守ってくれたら、なおうれしい。

では、今日も格言風の出だしで。

「どんな病気であろうとも、空想することが出来れば、それは夢への1歩となる」

ーー松桐谷まこ

私は今、無職なので使ってないけど、株式会社を持っている。

うつ病になる前、私は、フリーランスの販売促進プランナーとして、個人事務所を立ち上げ、様々な広告活動の裏で暗躍していた。

業務形態は「松桐谷まこの個人事務所」だが、取引先の企業とのやりとりがスムーズなように、事務所は株式会社へと法人化していた。

マネージャーさんや、アシスタントさん、制作スタッフさんで、一番多い時で6人のスタッフさんが働いてくれていたが、私がうつ病で倒れてからは、会社が回らなくなったので、スタッフさん達には別の勤め先を探してもらうことになった。

スタッフさん達は、「まこさん、さみしいです。早く治して、また活躍してるとこ見せてください」と言ってくれ、私は胸を切られるような思いで皆と別れ、療養生活に入った。そして私の療養は、予想をはるかに超え、今年の3月で丸6年を超えた。

そんな流れで、今、会社に所属しているのは私だけである。

その私も今は療養のため、仕事をしていないので、その会社は現在、開店休業状態だ。そんな事情で、私は専業うつだけど、株式会社を持っているのだ。使ってないけど。

うつ病になった私は、うつ病の症状による、頭の認知機能の低下で、いろんなことが分からないまま5年以上が経過した。

ようやく去年の暮れくらいから覚醒してきて、私は自分の仕事のキャリアに、5年の空白期間が出来ていることに気づき、これは参った、と愕然とした。

ガックリしたが、もう少し、よくよく考えてみれば、私のようなフリーランスの広告ウーマンは、実力主義の世界なので、キャリアなんてあんまり関係がない。

なので、私の人生スゴロクは、うつ病による「一回休み」で、未来が白紙になってしまったが、もう一度、やろうと思えば、リ・スタートにはなるが、広告の仕事も出来なくはない。

ーーでも、この時点で、私は気づいてしまった。未来が白紙になったということは、別の仕事をしたっていいということに。

思いがそこに至った時、私は目の前がパァッと開けるような気がした。

ーーそうだ、私は私のなりたいものに、何にだってなれるのだ! 私、何屋さんになろう?

私はワクワクしながら、iPhoneのメモ帳アプリに「死ぬまでにやりたい職業リスト」を作り、どんどん書き留めていった。これから何をやってみたい? 子どもの頃になりたかったものってなんだったっけ……。

それは胸踊る作業で、私は出来上がったリストを眺めて、悦に入った。

ーーうつ病にならなかったら、あのまま広告屋さんだったと思うけど、今の私には、無限の可能性があるのだ。なんてステキ! コレ、なんなら全部やりたい!

……しかし、眺めているうちに、私は2点、大きな問題があることに気づいた。解決方法も思いつかない。

私は考えた末、、、

ーーそうだ、明日、友人の横水さんに相談しよう。横水さんは、私とはまた違う着想をする人だから、なんかいいアイデアをくれるハズ。

私は問題を友人の横水さんに丸投げすることにして、安らかに眠りについた。

さて翌日。私は横水さんと、いつも行く近所の喫茶店にいた。テーブルを挟んで向かい合わせに座り、それぞれ飲み物を注文した後、私は横水さんに切り出した。

「横水さん、私、悩みがあるの」

「どんな?」

私は、iPhoneの「死ぬまでにやりたい職業リスト」を見せて言った。

「横水さん、それが私のやりたい職業リストなんだけどさー」

横水さんはiPhoneの画面をスクロールさせ、

「えーと? なになに?

・探偵、
・占い師、
・作曲家、
・詩人、
・手品師、
・農家、
・ジャズシンガー、、、

……まだまだ、いっぱいあるねぇ。

これ死ぬまで忙しいね」

「うん、全部で27個ある。それでねぇ、リストの一番下、見て」

私は横水さんを促した。

横水さんは、画面をスクロールさせ、リストを読み上げた。

「えーと?

・忍者
・海賊船の船長」

私は神妙な顔つきで横水さんに言った。

「そこが問題〜。

他の職業はね、難易度はそれぞれあっても、なんとなく、なる方法というか、何したらいいのか分かるじゃん。

でも、その忍者と海賊の船長だけは、現代社会において、どうやってなったらいいのか、何したらなれるのか、分からないんだよ。私の中のなりたいレベルがかなり高いのに」

横水さんは、うーん、と考えて、カルピスをひとくち飲み、言った。

「両方、解決する方法があるよ」

私は身を乗り出す。

「なに? なに⁉︎」

横水さんは、こともなげに言った。

「忍者と海賊が出てくるテーマパークを作ればいいんだよ。そしたら忍者にもなれるし、海賊船も持てる」

「テーマパーク⁉︎」

「うんうん」

「……テーマパークかぁ、それは思いつかなかったなぁ。でも確かに、なるほど、どっちにもなれる」

「良くない?」

「いい! でも、テーマパークって、どうやって作るの? テーマパークってことは、なんかベースになるストーリーがいるよね。ディズニーランドのミッキーとか、ユニバーサルスタジオのハリポタとか」

「うん」

「それはどうしようね?」

私が聞くと、横水さんは、何を今さら、といった感じで言った。

「そりゃー、まこちゃんが書く、に決まってるじゃん。忍者が活躍して、海賊船も出てくる、壮大な物語。ハリポタみたいに世界的なベストセラーにすれば、テーマパークは出来上がるよ」

「そうか! 風が吹けば桶屋が儲かるシステムで、私がお話を書いたら、忍者にも、海賊船の船長にもなれる可能性が出てくるってことか!」

「そうそう、腕次第で海賊船があなたのものに、だよ」

「おー、がんばる気持ちになってきたよ」

「それに、まこちゃん、病気になる前から広告の原稿描いたり、企画書書いたり、ずーっと書く仕事してて、今もブログ書いたりして、書くことは日常の一部になってるから、療養しながらでも無理せずに出来るしね」

「確かに、無理せずに出来る。ふとんの中でも出来る」

「ベストセラーになるくらいのお話が書けたら、読んでくれるたくさんの人も、楽しい気持ちになれるよ」

「うわー、夢があるねぇ」

「夢があるねぇ」

「でも、横水さん。私、発想は出来ても、実務は向いてないから、テーマパーク作っても、運営出来ないかも」

「そこらへんは、実務が得意な横水におまかせあれ」

横水さんは、力こぶを作って、笑ってそう言った。横水さんはやせっぽっちだけど、スポーツウーマンなので、カッコいい力こぶを作れるのだ。

「おー、頼もしい。一緒になら、出来そうな気がするねぇ」

「楽しいねぇ」

ーー横水さんと、上の会話をしたのが4ヶ月前。

その日以降私は、療養の傍ら、忍者と海賊船の出てくるお話の構想を練っている。子供から大人まで楽しめる、愉快で痛快な、夢踊る冒険活劇。

イギリス人が、魔法使いで世界を席巻したのなら、私は日本人として、忍者で世界を席巻出来ないものか、コッソリ試してみようと思う。宝クジも買わねば当たらないし、もしかしたらひょっとするかも知れないので、挑戦してみることにした。

物語のタイトルも決めたし、主人公の名前も決めたし、友達の名前や、登場人物も考えた。忍者の城の名前も決めたし、海賊船の名前も決めた。敵の組織の名前も考えた。出てくる山の名前や、町の名前、寺の名前、神社の名前、、、。実現化するのが前提のお話なので、アレコレ真剣に考えて決めた。

テーマパークの舞台になる、物語の舞台設定も、画用紙を広げてマップを描いて、日々試行錯誤中。忍者村はもうあちこちにあるので、被らないよう、私の物語の主人公は、現代に生きる忍者で行く。古来からある日本のステキなところと、今ある楽しいものを突っ込んで、好き勝手に私のワンダーランドを作るのだ。

まだまだ構想を練ってる段階だけど、人は夢中になれることなら、無理しなくてもコツコツがんばれてしまう。

私は100円ショップでA4サイズのプラスチックの箱を買ってきて、メモを貼り足してツギハギだらけになったマップや、物語の切れ端を書き留めたメモ、シーンをスケッチした落書きなどをわんさかと放り込んでいる。

いつの日か、何年先になるかまだ分からないけど、皆さんにお披露目できるよう、ただいま鋭意準備中である。

私の夢は、小説家になることではない。いや、小説家も死ぬまでにやりたい職業リストの中に入っているので一度はなってみたいが、それよりも、その先のスーパー・ドリームのために、楽しい物語を書いて、皆さんに楽しんでもらえるようにすることが夢なのだ。うつ病で楽しいことなど何も無くなった私が、回復し、楽しいことを生み出せたら、こんな愉快なことはない。

そして、その折には、私は忍者になって、イカした海賊船を手に入れるのだ。初心も忘れない。

そんな感じで、最近の私は療養しながら、上の物語のメモや、文章の練習のために書いている短編、このブログなど、自分のための書き物をメインに過ごしている。

そして時々ツイッターをしながら、横水さんとお茶を飲み、といった日々を送っているのだが、

最近また全然別の、新たな思いが湧いてきた。しかし、またもや1つ、解決の出来ない問題が出てきた。解決方法も思いつかない。

私は考えた末、、、

ーーま、横水さんに聞こう。

またもや、私は問題を横水さんに丸投げすることにして、安らかに眠りについた。

さて翌日。私は横水さんと、いつも行く近所の喫茶店にいた。テーブルを挟んで向かい合わせに座り、それぞれ飲み物を注文した後、私は横水さんに切り出した。

「横水さん、私、野望があるの」

「どんな?」

「私、会社、持ってるじゃん。使ってないけど」

「うん」

「この会社をね、いろんな事業部がある、100人を超える従業員さんがいるような企業にしたい」

「なんで、そんなことしたいの?」

「私、最近ツイッターで仲良しの人が増えてね、皆さんのツイートを見てて、とても楽しいんだけど、時々、やるせなくなる時があるんだよね」

「やるせない?」

「うん、例えば、私みたいに、うつ病になっちゃったりとか、病気のせいで休職しなくちゃいけなくなると、履歴書にブランクが出来ちゃう。

あと、病気だったから、って偏見の目で見られて、再就職しにくくなる。

再就職しても、かなり無理して働かざるを得ない」

「うーん、今の現状ではそうだよねぇ」

「ツイッター始めるまでは、病気の人の知り合いはいなかったから、そんなこと思わなかったけど、今、仲良しの人が苦労するのは、心底やるせない」

「そうだよね」

「でもね、病気持ちでも、履歴書に空白があっても、それぞれ、すごく才能やセンスのある人がいるんだよ。

もしかしたら、本人も気づいてないかもしれない才能。

私、長年、広告ウーマンやってたから、いろんな業界、職種の人を見てきたけど、適材適所であれば、病気持ちでも、めちゃくちゃ才能を発揮しそうな人が、いっぱいいるんだよね」

「うんうん、そうだろうね」

「だからね、履歴書や、病気かどうか、で選別するんじゃなくて、過去は別にどっちでもよくて、今、何が、どのくらい出来るか、どんな人か、で人を雇えるような会社にしたいの。

出来れば、たくさんの人を雇えるように、大きい会社にしたい。

体調や、家庭の事情で動きやすいよう、フレックス制導入でね」

そこまで聞いた横水さんは顔を輝かせた。

「あぁ、それは、すごくいいね! 素晴らしいね。それ、すごくいいアイデアだと思う。世の中を変えるとかじゃなくて、自分達でそういうのを作っちゃうんだね」

「うん。で、個々の能力を活かせるように、適材適所で働けるように、なるべくいろんな部門があるようにしたいの」

「いいんじゃない?」

「でも、なんの事業をやる会社にしたらいいか、思いつかなくて。部門がいっぱいあるヤツ。どう思う? 横水さん」

横水さんは黙って、カルピスをひとくち飲み、言った。

「解決する方法があるよ」

私は身を乗り出す。

「なに? なに⁉︎」

横水さんは、こともなげに言った。

「お話書いてテーマパーク作るんだよね? テーマパークの運営には、それこそ、固い部署からクリエイティブな部署まで、いろんな部門が必要だよ。まこちゃんの持ってる会社で、それをやればいいよ」

「あっ、そうか、テーマパークの運営!」

「そしたらいろんな仕事があるし、たくさんの人の力が必要になるし、その夢は実現できるよ。当初の目的だった海賊船も手に入るし、両方の夢が同時進行出来て、一石二鳥」

「確かに!」

「そうそう、腕次第で大企業もあなたのものに、だよ」

「うわー、夢があるねぇ」

「夢があるねぇ。それに、まこちゃんは趣味と実益を兼ねて、無理なく、ひとつのことだけやればいい」

「ひとつのこと?」

「うん、これまで通り、書くこと。まこちゃんの書くお話に、すべてはかかってる」

「なるほど~。ヤル気が加速〜! でも、横水さん、私が今持ってる会社、私が一応社長になってるけど、大企業を取りまとめる能力は、私には無いかも」

「そこらへんは、実務が得意な横水におまかせあれ」

横水さんは、力こぶを作って、笑ってそう言った。横水さんはやせっぽっちだけど(以下略)。

「おー、頼もしい。横水副社長!」

「そしたらさぁ、まこちゃん。私、副社長やりながら、トイレ掃除のオバちゃんやりたい!」

「ははーん、用務員さんかと思ったら、校長先生だった、みたいなパターンのヤツね!」

「そうそう、掃除のオバちゃんに、気さくな若手社員が何気なく、俺いつか、こんなプロジェクトをやりたいんだー、みたいな夢を語ったら、、、」

「次の日、社長室に呼ばれて、は⁉︎ 掃除のオバちゃん、何でこんなところにいるの⁉︎ と混乱するところに、君のアイデアを採用するよ、みたいに社長辞令が出て、大抜擢~!」

「そうそう、そんな、柔軟な会社にしたいよね!」

「うわー、夢があるねぇ」

「夢があるねぇ」

それから私達の話題は、私達2人の自宅から通いやすい場所で、テーマパークと自社ビルを建てられるような良い立地はどこか、という話題に移っていった。

ーー夢は、出来る範囲でしか見てはいけないものではない。時に夢は、心に希望や、志を与えてくれる。

病気に想像力を奪われて、何年も夢など見れずに過ごしたのだ。せっかく再び夢を見れるようになった今、どうせなら、とびきり大きい夢を見ていたい。どんな荒唐無稽なテーマを持ち込んでも嘲笑したりせず、考え、アドバイスをくれ、一緒にやるよ、と言ってくれる最強の親友もいる。

そしていつの日か、夢を叶えて、横水さんや、仲良しの皆さんと一緒に、思いっきり笑うのだ。それはきっと想像もつかないくらい、すごく愉快な気持ちに違いない。

ーーそんなわけで、千里の道を一歩ずつ歩むべく、今日も私はとりあえずiPhone片手に、ポツポツ文を書く。

見果てぬ夢に向かって。