うつ病とバトルしていたら、うつによる容赦ない断捨離が施行された。そ、それはマジで捨てたらダメなのにー!

うつと戦ってはいけない。このことに気づくのに、けっこう時間がかかってしまった。

うつ病になり、私は寝付いてしまった。ようやく起き上がれるようになっても、頭はフリーズして思考停止してしまい、心は絶望に突き落とされている。

うつはそんな私に戦いを挑んでくる。常にうつの挑発に振り回される中、私は薬を飲んでわずかに回復し、なんとかうつとのバトルの攻防を繰り広げていた。

攻防といっても、ほとんどうつのターン。全然ヤル気出なくなるビームや、不安爆弾、死んでしまえの呪文をかけられたりと、私はメタメタになるほどうつからの攻撃を受け、傷つき、やっつけられた。

「やめて! 私のライフはゼロよ!」

そう叫んでみても降参は許されない。降参は、うつの不安と恐怖の奴隷になるか、死を意味する。自由を手に入れるためには立ち向かわなければならないのだ。

私の心が悲鳴を上げる。「司令官、このままでは、我が軍は全滅しますッ!」

私は瀕死の身体で新たな攻撃を繰り出した。私のターン! 転院ッ! 薬の変更ッ! 認知行動療法〜ッ!

「私の全軍に告ぐ! うつはひるんでいるッ! このまま待機!」

うつが一時沈静化する。ようやく私は激しいバトルフィールドの様子を伺う余裕が出てきた。

戦況を見て、やっとうつの攻撃が収まったことに安堵しながら我が陣地を振り返った時、私は愕然とした。

そうやって私がうつとすったもんだのバトルをして気を取られているうちに、うつは素知らぬ顔で、私の大切にしていたものを勝手に断捨離していたんである。

そんなこと頼んだ覚えは無いのに。それもお金では買えないプライスレスなものばかりを。

仕事、人間関係、ライフスタイル。未来への希望。

「ちょ、ちょっと待ってよ、それは捨てたらダメだよー!そんなのアリなわけー⁉︎」

そう叫んでみても、もう手遅れ。

いい感じで築き上げてきたと思っていたキャリアやライフスタイルは、全部ぶち壊され、平らにならされ、ペンペン草も生えない勢いでキレイに整地されていた。

うつ発病から5年が経っている。うつ病で療養中の私にとっては、家にこもっているだけなので、外的な変化がないが、世間の皆さんには日々いろんなことが起きている。5年も経てばもはや一昔前のことである。うつ病の私と世間の皆さんは、流れる時間の早さが違うのである。

気がついてみれば、私は持っていた多くのものを失い、時間の流れに取り残されていた。私の持ち物はほんのわずかしかなかった。

私は途方にくれた。悲しみ、怒り、散々嘆いた後、やっと自分に残されたものを改めて見返した。

私に残ったもの…

家族、親友。それと、自分自身。

ゼロにはならなかった。うつが勝手に断捨離をしても、私の本当に大切なものは、私自身が手元にしっかりと握りしめていたのだ。

私はうつと戦うことを止めた。降参したのではなく、うつとの戦場から脱出することにしたのだ。うつと戦っても、何も良いことはない。逃げるが勝ちである。

この5年間で私のこれまでのキャリアは崩れ去った。人間関係はほぼゼロになった。未来はすべて白紙になった。

今はそこからひとつずつ、また新たに自分の大切なものをコツコツ集めて、居心地のいい自分の居場所を組み上げていけばいいと思っている。

人間関係は、うつが勝手に断捨離をしない限り、こんなにキレイサッパリ人との縁が突然なくなることは人生でそんなにないと思う。その中には、義理でお付き合いしていた人も少なくなかったけれど、そういう人も知人とのつながりも全滅してしまった。残されたのはわずかな親友だけだった。

もう少し元気になったら、時期が来たら、縁があれば、また改めてきちんと向き合って関係を再構築したり、新たな出会いを大切にしていけばいいと思っている。

そして、白紙になった未来について。

以前の私の未来予想図には、キャリアアップしてきた自分の、その先の輝かしい未来が描かれていた。それがうつ病によって、漂白したくらいのクオリティで真っ白な白紙になってしまった。

病気になる前、がんばってきた自分の成果がチャラになるのは、ちょっと残念だが、まぁ、こうなってしまったら、もう仕方がないや。

白紙という事は、何を書き込んでもいいということでもある。新しい未来への夢や希望だって、好き勝手に自由に記すことができるということである。

自由に、新しい道を歩いて行こう。

私は戦場に背を向けて、スナフキンのように葉っぱを口にくわえながら、ギターをかき鳴らして、白紙の上を歩いて行こう。

ギターは弾けないけど、そのシーンで弾くなら、Ben E. Kingのスタンドバイミーにしようと思う。

When the night has come

夜が来て

And the land is dark

そしてあたりは真っ暗闇

And the moon is the only light we’ll see

月の光だけが僕達を照らす唯一の明かりになっても

No I won’t be afraid, no I won’t be afraid

僕は恐くないよ

Just as long as you stand, stand by me

きみがそばにいてくれたらね