イソップ童話「オシャレなカラス」うつ病バージョン

ある森の中に鳥達の住む町がありました。鳥達はみなオシャレをすることに余念がありません。

キレイな羽を持った鳥達は、さらに美しくなろうと努力をし、自分を磨き、その成果をSNSにアップします。

SNSを見ていた1羽のカラスがため息をつきました。

「みんなステキだなぁ、僕の羽なんか真っ黒でちっとも美しくない。僕もオシャレになりたいなぁ」

ある日もそんなことを考えながら、町の大通りを歩いていると、道端に1本の美しいクジャクの羽が落ちていました。

カラスはそれを拾い、

「わぁ、なんてキレイな羽なんだろう! 僕にもこんな羽が生えていたらなぁ。あ、そうだ!」

カラスはそのクジャクの羽を自分のしっぽに差し込んでみました。お店のウィンドウに映る自分は、少し格好良さがグレードアップしたように見えます。

「この手があったか。ようし!」

カラスは通りに落ちている羽をせっせと拾い集め、家に帰りました。鏡の前で拾い集めた羽を体に丹念に貼り付けていきました。

「やぁ、カラスくん、何をやってるんだい?」

飛んできたスズメが窓に腰かけ、カラスに聞きました。

「オシャレをしているんだよ。僕はずいぶんステキになっただろう?」

カラスがそう言うと、スズメはまた聞きました。

「でもカラスくん、それは、虚飾じゃないかい?」

「いや、スズメくん、これは努力だよ。実際のところ、これだけの羽を集めるには、けっこうな時間がかかったよ」

「そうかい。それにしても君は見違えるようになったよ」

そういうとスズメは飛んで行きました。カラスはさっそく美しくなった自分の写真を撮り、SNSにアップしました。SNSにはたくさんの「いいね!」がつきました。カラスは得意になりました。

翌日、カラスは美しくなった自分を見せびらかそうと町の大通りに行きました。

ところが何ということでしょう。

他の鳥達もカラスのように、美しい羽を付け足しているではありませんか。

カラスが愕然としていると、通りがかったハトが言いました。

「カラスくんのアイデア、マジで良かったよ。僕もシェアしておいたから」

カラスは慌てて大通りを見渡しました。1本の羽も落ちていません。

カラスは細い路地裏まで探し回り、数本の羽を持って帰りました。

鏡の前で昨日と同じように貼り付けました。SNSを見ると、みんなはもっとゴージャスに美しい羽を貼り付けています。

カラスは急に体中に貼り付けた羽が重くなったように感じました。カラスはベッドに倒れこみ、自分で刺した羽を1本1本抜いていきました。

最後に、最初に差し込んだクジャクの羽を抜くと、もう力が出なくなりました。

スズメがまた、窓越しにやってきました。

「カラスくん、動けないのかい」

「うん、スズメくん、なんだか力が出ないんだ。君と話すのも辛いよ」

「カラスくん、君はきっとうつ病だよ。がんばりすぎたんだよ。一緒に病院に行こうよ」

「いや、スズメくんには悪いけど、僕はもう、動けないんだ」

スズメは帰って行きました。カラスはベッドに横になったまま、動けませんでした。数日が経ち、カラスがようやくベッドから出ると、ベッドにはたくさんの黒い羽が抜け落ちていました。

鏡を見るとそこには、丸裸に羽を毟られたチキンのような、おかしな鳥が映っていました。

「ああ、僕には美しくなくても、カッコイイ黒い羽があったのに。僕はすべてを無くしてしまった」

カラスは絶望し、ベッドの黒い羽を乱暴に払いのけ、倒れこみました。このままローストチキンになってしまいたいと思いました。

「カラスくん、カラスくん」

窓辺からまたスズメの声がします。カラスは毛布を頭からかぶると言いました。

「もう、僕のことはほっといてくれよ、スズメくん」

「ほっておけないよ、君は大事な友達だから。今日はお医者さんを連れてきたんだよ」

カラスが毛布から顔を出すと、窓辺にはスズメのとなりにフクロウがいました。

「これは神経性の脱毛だねぇ。薬をキチンと飲んで、しっかり休みなさい。ホッホッホ、大丈夫、羽ならまた生えてくるから」

カラスはフクロウの診察を受け、薬をもらいました。

時折、スズメが様子を見にきてくれました。時が経つに連れ、カラスは少しずつ良くなって行きました。

そのうちカラスにはふわふわした羽が生えてきました。鏡にはまるで黒い綿のような羽毛に覆われたカラスが映っています。

「これはこれで、悪くないかもしれないな」

カラスがそう思っていると、いつものようにスズメがやってくるなり言いました。

「カラスくん、Yahoo!ニュース見た!?」

「見てないけど。どうしたの、スズメくん」

「神様が、鳥の王様を決めるんだって。一番美しい鳥を鳥の王様にするんだって。コンテストは来週だよ」

「そうなんだ。誰になるんだろうね」

「ねぇカラスくん、君もエントリーしてみたら?」

カラスは驚きました。

「えっ、僕が!?

それは無理だよ、スズメくん。僕はこんなふわふわの羽しか生えていないんだ」

スズメはカラスを見て答えました。

「君は、そのままの君で充分ステキなんだよ」

1週間後、カラスはスズメに付き添われてコンテスト会場に行きました。会場は美しい鳥でいっぱいです。

エントリーした者全員に与えられるアピールタイムで、他の鳥達はモデルのようにポーズを取ったり、美しい声で歌を歌いました。

いよいよカラスの出番です。カラスは美しくもないし、歌も歌えません。だからカラスは自分の話をしました。キレイな羽を拾ってから、今までのこと。苦しかった病気の話、大切な友人の話。足は震えるし、時々つっかえながらも、一生懸命話しました。

カラスがステージを降りると、スズメが駆け寄りました。

「かっこよかったよ、カラスくん」

「うん、僕は出場できただけで、本当に満足なんだよ、スズメくん。ありがとう」

1週間後、カラスとスズメは、カラスの家で一緒にをスマホを覗いていました。

『【速報】鳥の王、決まる

新王に選ばれたのはクジャク氏』

「やっぱり王様はクジャクさんか。かっこよかったもんね」

と、スズメが言いました。それを受けてカラスが答えました。

「でも、僕は王様になるより、素晴らしい賞をもらったよ。とても大切な宝物だよ」

カラスは胸を張りました。その胸にはビンのフタで作ったメダルが飾られています。そこにはスズメの字でこう書かれていました。

「がんばったで賞」

ー原典「虚飾で彩られたカラス」イソップ寓話 –wikipedia