うつ病にアニマルセラピーは有効? 私にとっては有効でした。

今日は私が経験したアニマルセラピーについて書こうと思う。アニマルセラピーというと大げさだが、私の家に小さい犬がやってきた話である。

アニマルセラピーとは、動物と触れ合わせることでその人に内在するストレスを軽減させたり、あるいは当人に自信を持たせたりといったことを通じて精神的な健康を回復させることができると考えられている。-wikipedia

うつ病になると脳が機能不全を起こす。私も脳が故障してしまい、恐怖と不安を本能的に感じる以外、何も考えられず、何の感情も持てなくなってしまった。

何にも関心が持てず、何を見ても心が動かない。思考能力が低く感情が乏しいので笑うこともなく、会話もままならない。

一日中横になって過ごし、トイレには這っていき、食事は与えられるものを食べた。食事を楽しむなんてことは出来ず、美味しいと感じることもなく、まるで飲み込むように無理やり食べた。

少し起き上がれるようになると、今度は不安と恐怖に押しつぶされて衝動的に死にたいと思うようになった。

家族は心配した。日中は家に私1人になってしまうので、私がマンションの駐車場に飛び降りて叩きつけられているのではないかと、その頃は毎日心配で帰ってくるたび駐車場を覗いてから家に入っていたと言う。

何の意欲も湧かず、感情が麻痺したままの状態は、半年近くも続いた。

そんなある日のことである。夫が私に一匹の子犬を出会わせてくれた。それは小さくて、華奢な、チワワのオスの赤ちゃんだった。

全身が黒くて手足と口のまわり、眉とシッポの先が白いその子犬は、私の両手に収まるほど何もかも小さいのに、意志が強そうで、大きな目をきょときょととして、馴れ馴れしくすり寄ってきた。

「……か、かわいい」

私はそう言った。今も覚えているが、それはうつ病になって初めてプラスの感情が湧いた瞬間だった。何にも興味が持てなかったのに、私はその小さい犬に関心を持ったのだ。

「じゃぁ、この子を家族にしよう。ちゃんと育てないとね」

1週間後、その小さい犬は家に来ることになった。うつ病による不安と恐怖は相変わらず常に存在していたが、そんな中でも私は楽しみに待った。楽しみという期待を持つことも久しぶりだった。

1週間の間に、夫と一緒に小さい犬の住処を準備した。小さい犬が居心地よく過ごせるよう考えて、ケージを選んだり、クッションを選んだりした。病院以外、外出することもほとんど出来なかったのに、初めて意欲を持ってペットショップに連れて行ってもらい、買い物をした。

犬を飼うのは初めてなので、飼い方の本も買った。その頃はまだ、自分で本を読むことが出来なかったので、家族に読み聞かせてもらった。何度も読んでもらい、よく回らない頭で反復した。

そして1週間が経ち、小さい犬は我が家にやって来た。初めての家に、最初こそオドオドとしていたが、そのうち自由に転げ回るようになった。それは見ているだけで楽しくて、嬉しかった。そんな感情を持つことも久しぶりだった。

ところがその小さい犬は、家に来てからすぐ体調を崩した。お腹を壊し、グッタリしている。私は心配し、オロオロした。日中は私しかいないし、この小さい犬の責任者は私である。私は意を決して、1人で小さい犬を動物病院に連れて行った。吃りながらもなんとか動物病院の先生に症状を説明し、診察を受けた。小さい犬は注射と飲み薬で回復した。

後から考えてみれば、病気になってから自分の通院以外の初めての単独行動である。夫は私の行動を知って、とても驚いた。でもその時は、うつ病の症状よりも、小さい犬の具合を心配するほうが勝ったのだ。この時、病気になってから初めて自分以外のものを気遣う、という感情を持った。

小さい犬はそれ以降も、たびたび具合が悪くなり、私は定期的に動物病院に行くことを余儀なくされた。そのおかげで私は、必要最低限の外出が出来るようになった。

小さい犬が来てから私は、ずっと小さい犬と一緒に過ごすようになった。毎日トイレシートを替えたり、ごはんや水をあげたり、遊んだりと、小さい犬の世話をしながら、私は少しずつ小さい犬と仲良しになり、少しずつ元気になっていった。

小さい犬が家に来てからもう5年になるが、振り返ってみれば、小さい犬にどれだけ癒されたか分からない。どれだけ慰められたか分からない。

私が具合が悪くて寝ていると、小さい犬も知らん顔で横で丸くなって寝ている。私がちょっと元気になって起き上がっていると、遊べ遊べと走り回る。ちゃんと私の体調が分かっているように見える。

激しい自殺衝動に駆られてベランダから飛び降りそうになった時も、普段はベランダに出ても吠えないのに、その時は必死で吠えて呼び戻してくれた。ただならぬ私の気配を察したのかもしれない。結局そこで思い留まり、今も生きている私は、小さい犬が命を救ってくれたのだと思っている。

(↓小さい犬に命を救われた話)

冒頭でちょっとだけ、今の日本の自殺者の状況を。 近年、日本における自殺者数は、確認されただけで年間約3万人を超えるという。報道では、自...

赤ちゃんの頃、病弱だった小さい犬は、すくすく大きくなり健康になったが、大きくなっても相変わらず小さい犬である。小さいくせに、とてもいばっている。家中で自分が一番偉いと思っているようだし、宅配便の人が玄関ドアの前に立つだけで大騒ぎする。番犬にはならないが、インターホン代わりにはなっている。

それでも私は、小さい犬にとても感謝している。うつ病にペットセラピーやアニマルセラピーが有効かと問われれば、私にはとても有効だったと答える。

私にとって小さい犬は、精神的な健康を回復させてくれただけでなく、命を救ってくれた名犬なのだ。ラッシーよりパトラッシュよりハチ公よりも、私にとっての名犬は、この小さい犬なのだ。

その名犬は今、テーブルに向かう私の膝に乗り、わざわざパソコンのキーボードの上に手を伸ばして、中腰の変な格好で寝そべっている。すごく、ジャマである。寝ているようなフリをしながら時折チラリと私を見るので、絶対、わざとやっているのだと思う。

でも、私はそんな小憎らしい小さい犬を、心から愛しく思っている。