薬の副作用で記憶喪失になった。記憶がない、という不思議な体験。

先日、私が体験したうつ病の薬の副作用について書いたのだが、

(その記事はコチラ↓)

うつ病の治療には服薬が欠かせない。薬のおかげで回復できるのだが、薬には効果がある代わりにリスクもある。 それが「副作用」である。 私は5...

ひとつ忘れていた副作用があった。 それが記憶喪失である。正確には「記憶障害」と言うらしいが、世間的には記憶喪失のほうが馴染み深いので、そのまま進める。

記憶喪失と言って一般的にイメージするのは、小説とかドラマでよくあるような、見知らぬ場所で目を覚まし、

「…こ、ここはどこだ? 俺はダレだ? 名前も分からない! 何にも思い出せないッ⁉︎」

みたいなやつであるが、私が副作用でなったのはそういうハードなものではなく、前日の夜の記憶がない日々が続く、というものだった。

よくあることだが、うつ病になると不眠の症状が出る。私も不眠になり、睡眠薬を処方してもらっていた。

それでもなかなか寝付けないので、ある日の診察で、薬量を少し増やしてもらうことにした。

それから数日後のことである。昨日、家族に頼んで買ってきてもらっていたアイスを食べようと冷蔵庫を開けると、アイスがない。

アレ〜?と思って探したが見当たらない。ゴミ箱を見るとアイスのカップが捨てられている。

私は食べた記憶がない。帰ってきた家族に文句を言う。

「私のアイス食べた?」

「食べてないよ。昨夜食べてたじゃん」

「???」

私、自分で食べたの? まったく記憶にない。忘れちゃったのかな?と、なんとなく腑に落ちないまま、でもそんなに大問題ではないので、気にせずにいた。

数日が経った頃、また小さな事件が起きた。

いつもなら帰ってくる時間を過ぎても、家族が帰ってこないのである。変だなぁ、と思いながら待つが、時間はどんどん過ぎていく。心配になって電話をかけようか、と思ったら、帰ってきた。またしても私は文句を言う。

「なんでこんなに遅かったの?」

「えっ、昨夜、今日は仕事で遅くなるから、先にごはん食べててね、って言ったよ。そしたら、遅くまでお仕事大変だねぇ、って言ってたじゃん」

「???」

知らない。そんな返事もした覚えがない。言った、言わない、とちょっともめたが、これもそんなに大問題ではないので、気にせずにいた。

そして数日後、私はまたしても不可解なことに遭遇する。

私は毎日薬を飲まないといけないのだが、種類が多いので間違えないように、ケースに薬を分配している。1週間1日ずつ、朝晩に分けて1回分の薬をケースで管理しているのだが、この薬を分ける作業がちょっと面倒くさい。

家族に丸投げしたいところだが、どう分けるかを説明するのもややこしいので、結局自分でやっていた。

その日、面倒くさいが1週間が終わるので薬を分けておくか、とケースを見ると、きちんと1週間分が分別されて収まっていた。

それを見たときの驚いたことと言ったら。親切な靴屋の小人が夜中にやってくれたのかと思った。でも、そんなわけないので、これは自分がやったことに間違いはない。

私は慌ててゴミ箱を見にいく。私しか食べないお菓子の袋が捨てられている。食べた覚えが無いのに。

私は昨日の夜のことを思い出そうとしてみる。思い出せない。夕食以降の記憶がまったく無い。考えてみると、ここ数日の夕食以降の記憶が全然無いことにやっと気づいた。

朝から夕食までのことは覚えている。どうやら記憶が無くなっているのは、夕食以降から眠るまでの間のようだ。

これは大変だ。家族に報告する。

「私、もしかしたら記憶喪失かも」

家族に聞いてみると、記憶がない時間の私は至って普通に過ごしているようである。普通に話して、普通にアイスを食べたりして、のんびり過ごしているようだ。

でも、翌日になると、その時間の記憶がスッポリ抜けている。

仕方がないので、大事なことはメモに残すようにした。

「明日は家族が遅くなるので、1人でごはんを食べるように」

「今日は宅配便が届くよ」

翌日私はメモを見る。まったく書いた覚えのないメッセージが、昨夜の私から今朝の私に届いている。でも、私の字だ。背中がザワザワとするような、すごく不思議な感覚。

デザートも、家族に文句を言う前にゴミ箱をチェックするようにした。ゴミ箱にはデザートの空の入れ物があり、私はきちんと食べているようだ。なんかもう、すごく損した気分。食べたのに、食べた記憶がないなんて。

次の診察時、さっそく私は主治医のK先生に相談した。するとK先生は言う。

「睡眠薬を早くに飲み過ぎてるからかもしれない。寝るギリギリに飲むようにしてみて」

そんな微妙なことで、あんな現象が起きるの?と不思議に思ったが、先生を信頼している私は、言われる通りに薬を遅く飲むようにした。

そうして数日経ったら、知らないうちに私の記憶はきちんと途切れなく、繋がるようになっていた。

1ヶ月ちょっと、毎日数時間だけの記憶喪失。

少し不便なこともあったが、副作用としては痛みや不快感があるわけではなかった。

ただただ、とても不思議な体験だった。